クメール建築大全 その2 Khmer Architecture
カンボジア、タイ、ラオスにまたがり存在し、いまなお輝き、人々を魅了しづけるクメール建築を楽しんで頂きたいと思います。第2回目はアンコール・トム周辺の寺院群です。
ひとくちメモ
主要なクメール建築は、ヒンドゥー教あるいは仏教の神々を祀っている寺院です。
当時の寺院は宗教的祭祀を行う場であるとともに、クメール人が考える理想の造形、神と同一視される王への尊厳などを表現しています。
寺院は、東西の軸線上に伽藍が展開します。東側にメインの入り口を設けることが原則です、すなわち正面です。例外的にアンコール・ワットは西側が正面です。ただし自然の地形を利用したためなどの理由からこの原則から外れる寺院もあります。
また中国や日本の寺院建築のように、正面性を強く意識させるのではなく、東西南北全てに入口と正面性を持つ4分屋という造り方をします
スタジオヤマ流の拝観の仕方を紹介しましょう。
参拝するとき必ずメインの入り口から入り、中心の祠堂に向かって進みます。時間がない、近道などの理由により、逆からあるいは横から入る人がいますがそのような参観は決してしません。
なぜならば王道を進むことにより、建築家(作者、デザイナー)が意図した空間を知覚体験できるのです。いいかえれば創作された物語を建築家の意図したとおりに鑑賞しうる唯一の方法なのです。
遺跡全体の構成を頭にいれて、次はデティール(詳細)を楽しみましょう。
まずは、入口のテラスにみられるナーガ:頭が5つないし7つ9つある蛇神・不老不死のシンボル、があなたを迎え入れてくれるでしょう。
さらに前に進むと、祠堂入口の頂部などに彫刻としてみられるヒンドゥー教の三大神、ブラフマー:天地創造の神、ヴィシュヌ:太陽神、シヴァ:破壊と創造の神、などを中心にさまざまな神が祀られているのが眼に入ってきます。
祠堂の内部には、シヴァ神の象徴であるリンガとヨニが祀られています。リンガ(おちんちん・男根)が、円形のプレート、ヨニ(われめちゃん・女性器)をつらぬいている状態で鎮座しており、生殖と豊穣をわかりやすくシンボライズしています。
遺跡が仏教寺院であれば観世音菩薩の巨大な仏頭が眼を引きます。
さらに、踊り子を意味するアプサラや女神デバターが、華麗に美人コンテストを競い合っています。
窓にも注目しましょう、そろばん玉を重ねたような円柱状の連子窓からの光が、祠堂のなかに鋭いコントラストを創り出し、まるで空間をナイフで切りつけたような印象を与えてくれるでしょう。
《 プリア・カン Preah Khan 》
《 バンテアイ・プレイ Banteai Prei 》
環濠と回廊に囲まれた寺院内部には、十字型の平面を持つ祠堂があります。

《 プラサット・プレイ Prasat Prei 》
個性的な顔をした女神デバター像が祠堂の壁面を飾っています。各寺院のデバターには、それぞれ実在のモデルがいるといわれています。
.jpg)
.jpg)
《 ニャック・ポアン Neak Pean 》
中央の正方形の大きな池に4つの同じく正方形の小さな池が配置されています。大きな池の中心には、円形の基壇を2匹のナーガ(蛇神)がぐるぐる巻きしている中央祠堂があります。全ての遺跡が、図形の中で最も単純な正方形(理性)と円(感性)で全てを表現しきったところに拍手です。
.jpg)
.jpg)
《 クロール・コー Krol Ko 》
周壁東側の塔門から中に入ります。境内には、拝殿と祠堂、少し離れて経蔵が配置されているのが見て取れます。

《 タ・ソム Ta Som 》
剣を持った門番の神が出入口の両脇を固めています。


《 チャウ・スレイ・ヴィヴォル Chau Srei Vivol 》
中央祠堂の大量の石材ピースを目の前にすると、この程度の規模の祠堂でも建設するには大変な時間と労力が必要なのだろうな、ということを実感できます。

《 バンテアイ・サムレ Banteay Samre 》
2重の高い周壁に囲まれまるで要塞のようです。実際ポル・ポト政権時代には刑務所として使われていたそうですが、なかに入るとそのイメージとは逆に保存状態もよく実に華やかです。

.jpg)
《 トマノン Thommanon 》
東側の塔門から、拝殿、祠堂、西側塔門と軸線上に伽藍が配置され解りやすい動線でお参りできます。


《 チャウ・サイ・デボーダ Chau Say Tevoda 》
祠堂壁面を飾るデバターのクラウンとイアリングがとても優美です。


《 タ・ケウ Ta Kev 》
王の死により未完に終わった大規模寺院です。装飾があまり施されてないいわば躯体のままの状態で現在にいたっています。そのことにより、形態のマッスが純な形で表現され迫力を創出しています。
.jpg)
.jpg)
.jpg)
《 タ・ネイ Ta Nei 》
回廊の東側塔門から境内に入ると、経蔵と祠堂が崩れそうになりながらも建っています。
.jpg)
《 東メボン East Mebon 》
東バライは、東西7km、南北2kmの灌漑用貯水池です、ただし現在では水はありません。その中心に東メボンが建立されました。当時の人々はお参りするさい船で往来したのです。


Comment